9. モジュールと構造型
これまでに既に 関数とサブルーチン ではプログラムの開発を容易にするための手段として,関数やサブルーチンといったサブプログラムを用いる方法を学んだ.これらサブプログラムは機能を分割し,1つの独立したプログラム単位として扱われる.ところがプログラムの規模が大きくなってくると,関数やサブルーチン群を用いるだけでは必ずしも十分とは言えなくなって来る.そのような場合に便利になってくる モジュール という機能について学ぼう.
モジュールも独立したサブプログラムであるが,関数やサブルーチンなどよりも 1段階大きなプログラム単位 として考えることができる.すなわち,複数の関連する機能を提供する関数やサブルーチン群を1つのモジュールにまとめて提供することが出来る.さらに関数やサブルーチンと大きく異なり,モジュール内部に宣言された変数に外部からアクセスすることも出来るため,複数の変数群をまとめる役割も果たす.またモジュールと共に用いると便利な 構造型 の使い方も身につけよう.構造型はいくつかのデータを1つにまとめて,新しいユーザー定義型を提供する機能である.
参考
sample1.f90 : 定数や変数の参照
sample2.f90 : 内部手続き
sample3.f90 : 総称名
sample4.f90 : アクセス制限
sample5.f90 : 構造型と演算子オーバーロード
9.1. モジュールの基本
既に述べたようにモジュールは1つの独立したプログラム単位である.その特徴は以下の様な点である.
モジュール内で変数宣言が出来る.宣言された変数はモジュール内部からはもちろん他のモジュールやメインプログラムから使用することが出来る.
複数の関数やサブルーチンをモジュール内で内部手続きとして定義することが出来る.内部手続きはモジュール内部の他の内部手続きや,モジュール外部から呼び出すことも出来る.
モジュールの定義は以下のような形で行う.
1module name_of_module
2 implicit none
3
4 ! 変数宣言など
5
6contains
7
8 ! 内部手続きの定義
9
10end module name_of_module
モジュールの構造はメインプログラムと非常に似ており,module
で始まり,end module
で終わる.また内部手続きは contains
から end module
の間に定義する.ただしメインプログラムに記述されたコードは上から順に実行されていくのに対して,モジュール内( implicit none
から contains
までの間)には実行文は記述せず,変数宣言などを行うだけである.内部手続きについても明示的に呼び出されない限りは実行されることは無い.
定義したモジュールはメインプログラムや,サブルーチン,関数,または他のモジュールから参照して用いることが出来る.使い方は implicit none
を記述する前に use
によって使いたいモジュールを記述するだけである.
例えばメインプログラムからモジュールを使用するには
1program name_of_program
2 use name_of_module
3 implicit none
4
5 ! メインプログラムの処理
6
7end program name_of_program
というような形となる.
9.2. 変数や定数の参照
モジュールを用いると変数や定数の宣言を共通化し,異なるモジュールやメインプログラムから利用することが出来る.大規模プログラムで共通の変数が複数のモジュールなどから参照される場合には変数宣言を共通化しておくと良い.具体的には以下の例の様になる.
1! モジュールの定義
2module mod_variable
3 implicit none
4
5 ! 定数の定義
6 real(8), parameter :: light_speed = 2.998e+08 ! 光速 [m/s]
7 real(8), parameter :: kboltzmann = 1.381e-23 ! Boltzmann定数 [J/K]
8 real(8), parameter :: hplanck = 6.626e-34 ! Planck定数 [J s]
9
10 ! 変数
11 real(8), save :: x, y, z
12
13end module mod_variable
14
15! メインプログラム
16program sample
17 use mod_variable
18 implicit none
19
20 ! 定数の値は参照のみ可能
21 write(*, '(a20, ":", e12.4)') 'speed of light', light_speed
22 write(*, '(a20, ":", e12.4)') 'Boltzmann constant', kboltzmann
23 write(*, '(a20, ":", e12.4)') 'Planck constant', hplanck
24
25 ! これはできない(コンパイルエラー)
26 !light_speed = 1.0_8
27
28 ! 変数の値は変更可能
29 x = 1.0
30 y = 0.0
31 z = 0.0
32
33 stop
34end program sample
プログラム実行中に常にどこからでもアクセスできる変数を グローバル変数,サブルーチンや関数の内部でしか用いない変数を ローカル変数 などと呼ぶことがある.上の例ではモジュールの内部変数がグローバル変数として用いられている.この例のように,一般にはモジュール変数をグローバル変数として用いるには save
属性を付けておく方が良い.例えば上の例で変数 x
,y
,z
の宣言を
1real(8) :: x, y, z
としてしまうと,複数のサブルーチンや関数などから use
で参照される場合に,その都度これらの値が書き換えられてしまう(初期化される)可能性がある.(例えばメインプログラムから1度だけ use
で参照される場合にはこのような問題は生じない.) 最近のコンパイラは自動でモジュール内変数に save
属性が指定されたものと扱う場合が多いようなので,これは必ずしも必須ではないかもしれない.ただしコンパイラ依存性を無くし,移植性の高いプログラムとするためには指定しておいた方が無難であろう.なお,いずれにせよ定数変数については参照されるだけなので save
属性は必要ない.
一般に,プログラムが複雑化して来ると グローバル変数がバグの原因 になりやすくなるため,使わない方が良いとされている.グローバル変数を一切使わない場合にはメインプログラムで全ての変数を宣言し,必要な変数を各サブルーチンや関数へ全て引数として渡せば良い.この場合にはデータの受け渡しが明示的に行われるので,意図せずデータが変更されるのを防ぐことが出来る.ただしこれはあくまで一般論であり,いつでもグローバル変数の使用を避けるべきというわけではない.比較的単純で,データの受け渡しを間違いそうに無いようなプログラム(比較的小規模の数値シミュレーションコードはこれに当てはまる場合が多い)であればグローバル変数を用いた方がスッキリ書けるような場合も多い.ただし,この場合でもグローバル変数にしても問題無い変数と,ローカル変数にすべき変数はよく考えて区別しておいた方が良い.何でもかんでもグローバル変数にしてしまうと汎用性の無いプログラムになってしまい,仕様変更に伴うプログラムの修正が非常に困難になる.
例えば以下の例を考えよう.ここでは変数 i
をモジュール mod_global
内で定義されたグローバル変数として用いている.メインプログラムの内部手続きとして定義されたサブルーチン sub
内の do
ループでも,メインプログラムでも変数 i
をループ変数として用いている.gfortran
でこのプログラムをコンパイルして実行すると,無限ループになってしまうようである(この動作はコンパイラに依存するかもしれないが,いずれにせよ「意図した通り」には動かない).これはメインプログラムから sub
を3回呼び出すつもりでも,sub
内部で変数 i
の値が更新され,メインプログラムの do
ループの反復が正しく終了しないためであろう.これは極端な例ではあるが,特にループ変数のように不用意に使ってしまいそうな名前の変数はローカル変数にして,必要な場合にその都度宣言して用いる方が安全である.
1module mod_global
2 implicit none
3
4 ! グローバル変数
5 integer, save :: i
6
7end module mod_global
8
9program main
10 use mod_global
11 implicit none
12
13 ! グローバル変数iでループを回す
14 do i = 1, 2
15 call sub() ! この中でiが更新されてしまう!!
16 end do
17
18 stop
19contains
20 subroutine sub()
21 implicit none
22
23 ! ここでもグローバル変数iでループを回す
24 do i = 1, 3
25 write(*,*) i
26 end do
27
28 end subroutine sub
29end program main
9.3. 内部手続き
メインプログラムと同様に,モジュールにも内部手続きを定義することが可能であり,またモジュールの内部手続きからモジュール内で定義された変数には自由にアクセスすることが出来る(これもメインプログラムの内部手続きと同様である).use
でモジュールの使用を宣言すると,モジュールの変数だけでなく内部手続きも同様に用いることが出来る.このようにモジュールは関連する変数と手続きをまとめることが出来るため,サブルーチンや関数よりも大きなプログラム単位を提供することになる.
例えば以下のモジュール mod_integrator
は予めサンプリングされた関数値の配列と刻み幅を受け取り,数値積分 で扱った台形公式およびSimpsonの公式を用いて数値積分する関数を内部手続きとして実装したモジュールである.このように関連するサブプログラムをまとめてモジュールの内部手続きとして実装しておけば,use mod_integrator
するだけで(外部手続きの時のように interface
による準備をしなくても)安全に利用することが出来る.これから分かるように,内部手続き で外部手続きを非推奨としたのは,単純に外部手続きを何らかのモジュールの中に入れて(内部手続きとして定義して)しまえば良いからである.これによって外部手続きの抱える問題は全て解決する.
1module mod_integrator
2 implicit none
3
4contains
5 !
6 ! 台形公式による数値積分
7 !
8 function trapezoid(f, dx) result(ret)
9 implicit none
10 real(8), intent(in) :: f(:)
11 real(8), intent(in) :: dx
12 real(8) :: ret
13
14 integer :: i, n
15
16 n = size(f)
17
18 ret = 0.5_8 * (f(1) + f(n))
19 do i = 2, n-1
20 ret = ret + f(i)
21 end do
22 ret = ret * dx
23
24 end function trapezoid
25
26 !
27 ! Simpson公式による数値積分
28 !
29 function simpson(f, dx) result(ret)
30 implicit none
31 real(8), intent(in) :: f(:)
32 real(8), intent(in) :: dx
33 real(8) :: ret
34
35 integer :: i, n
36
37 n = size(f)
38
39 ! 端点を含めた配列サイズが奇数でなければエラー
40 if( mod(n, 2) == 0 ) then
41 write(*,*) 'array size must be odd'
42 stop
43 end if
44
45 ret = f(1) + f(n)
46 ! even
47 do i = 2, n-1, 2
48 ret = ret + 4.0_8 * f(i)
49 end do
50 ! odd
51 do i = 3, n-2, 2
52 ret = ret + 2.0_8 * f(i)
53 end do
54 ret = ret * dx / 3.0_8
55
56 end function simpson
57end module mod_integrator
9.4. 総称名
これまでは何も意識せずに単精度で宣言された x
に対しても,倍精度で宣言された x
に対しても sin(x)
のように型の精度を気にせず組み込み関数を呼び出しをしてきたことと思う.しかし自分で定義した関数やサブルーチンについては,正確に宣言した型を引数として呼び出す必要があった.実はその昔のFortran 77の時代には単精度に対して sin(x)
,倍精度に対しては dsin(x)
というように,組み込み関数にも精度ごとに異なる関数が用意されていて,手動で使い分ける必要があった(ここで d
は倍精度を表すdoubleの意味である).これでは明らかに不便である.
Fortran 90以降では,この問題を解決するために,内部手続きに対して総称名(オーバーロード)という便利な機能を用いることが出来るようになった [1].これを用いると,呼び出し形式(引数の数や型)が異なる複数の関数やサブルーチンを同じ名前で呼び出すことが出来る.先ほどの sin(x)
の例で言えば,引数 x
が単精度実数であれば単精度版を,倍精度であれば倍精度版の関数を自動的に選択して呼び出すことになる.自分で定義した関数やサブルーチンについても,この総称名の機能を用いることが出来る.
これにはモジュールの変数宣言部分で
1interface generic_procedure
2 module procedure specific_procedure1, specific_procedure2
3end interface generic_procedure
のように interface
を用いて総称名を宣言すれば良い.個別名としては呼び出し形式の異なる(形式が同じだとコンパイラが判別出来ない!)複数の関数やサブルーチンをカンマで区切って記述する.これによって複数のルーチンを単一の名前で呼び出すことが出来る.(上の例の場合は総称名 generic_procedure
によって specific_procedure1
や specific_procedure2
を呼び出す.)コンパイラは総称名で呼び出されたルーチンについて,その呼び出し形式に応じて自動的に適切なものを選択する.具体的な使い方は以下の例を見て欲しい.
1! 面積を計算するモジュール
2module mod_area
3 implicit none
4
5 real(8), parameter :: pi = 4*atan(1.0_8)
6
7 ! 総称名を定義
8 interface triangle
9 module procedure triangle1, triangle2
10 end interface triangle
11
12contains
13
14 ! 底辺と高さが与えられた時の面積の計算
15 function triangle1(a, b) result(area)
16 real(8), intent(in) :: a, b
17 real(8) :: area
18
19 area = a * b / 2
20
21 end function triangle1
22
23 ! 3つの頂点の座標が与えられた時の面積の計算
24 function triangle2(x1, y1, x2, y2, x3, y3) result(area)
25 real(8), intent(in) :: x1, y1, x2, y2, x3, y3
26 real(8) :: area
27
28 area = abs((x2-x1)*(y3-y1) - (x3-x1)*(y2-y1))/2
29
30 end function triangle2
31
32end module mod_area
この例では三角形の面積を底辺と高さが与えられた時と3つの頂点の座標が与えられた時のいずれも同じ関数名で呼び出すことが出来るように総称名 triangle
を宣言している.2つの違いは呼び出し時の引数だけなので,呼び出される時の引数の個数や型によってコンパイラが自動的に適切な方を呼び出すことが出来る.なお,総称名を用いると全く別の機能を実装したものであってもまとめることが出来てしまうのだが,このような使い方は混乱の元になるだけであろう.総称名を使うのは意味的に同じ機能を持った関数やサブルーチンをまとめる時にのみにしておいた方が良い.
9.5. アクセス制限
モジュールを用いるために use
すると,モジュール内で定義された変数,関数,サブルーチンに自由にアクセスできるが,これは一般的にはあまり好ましいことでは無い.例えば,変数や定数の参照 では不用意にグローバル変数を作るとバグの元になることを示した.これはモジュールの利用者がモジュール内部の詳細を知らないために起こる問題である.
しかし,そもそもモジュールを利用する側はモジュール内部の詳細について知らないことが一般的であるし,そうあってしかるべきである.すなわち,モジュールを提供する側はそのモジュールと外部のインターフェースのみを提供し,内部の実装の詳細については公開しないという立場を取る方が懸命である.これには主に以下の2つの理由が挙げられる.
モジュールを利用する立場からは,モジュール内で定義された変数名などで名前空間が汚染されてしまい,同じ名前の変数やルーチンを宣言出来なくなる.
モジュールを提供する立場からは,モジュール内部で用いている変数などが不用意に変更されてしまう可能性がある.例えば何らかの状態を保持する変数が利用者から意図せず変更されてしまうと動作がおかしくなるかもしれない.
関数とサブルーチン で学んだことは,それらをブラックボックスとして用いることで間違いを減らすことが出来るということであった.モジュールについても基本的に考え方は同じであって,せっかく機能を分割してモジュールを実装したのならば利用する時にはその中身のことは忘れたい.特に規模が大きなプログラムを複数人体制で開発する際には他人が実装したモジュールの中身など知る由も無いし,知りたくも無いであろう.いたずらに守備範囲を広げてエラーするくらいなら,狭くても良いから自分の守備範囲だけは死守する方が守りは固くなるのである.
9.5.1. 参照先からのアクセス制限
まずは参照先(モジュールの利用者の側)からのアクセス制限について学ぼう.一部の変数やルーチンへのアクセスしか必要無い場合には,use
宣言の際に only
を用いてそれ以外の名前を参照先からは無効にする(見えないようにする)ことが出来る.例えば 変数や定数の参照 の mod_variable
から light_speed
だけを用いたい場合には
1use mod_variable, only : light_speed
のように only :
に続けて必要な変数名やルーチン名をカンマで区切ってリストすれば良い.また light_speed
を別名で使いたい場合には
1use mod_variable, only : c => light_speed
のようにすることで,light_speed
の代わりに c
という名前でアクセスすることが出来る.(ただしあくまで別名なので実態は``light_speed`` のままである.) これによって,例えばモジュール内部の変数と同じ名前の変数を参照先で使いたい場合に,名前の競合を避けることが出来る.
9.5.2. 参照元からのアクセス制限
参照先からのアクセス制限は言わば性善説の立場に立ったアクセス制限である [2].それに対して,性悪説の立場に立った,モジュールを提供する側からのアクセス制限も可能である.
モジュール内部で宣言された変数やルーチンには public
や private
などの属性を与えることが出来,この属性によってアクセス制限をすることが出来る.すなわち,private
属性が指定された変数やルーチンはモジュール外からは直接見えず,内部からのみアクセスが可能になる.一方で,public
属性が指定されたものは公開され,外部から自由にアクセスすることが出来る.Fortranのモジュールでは public
がデフォルトである.
原則としてモジュールの内部でしか用いられないものは外部には公開しない方が良い.例えば以下のモジュールを考えよう.
1module mod_sample
2 implicit none
3
4 integer :: l, m, n
5
6end module mod_sample
いかにも他で使いそうな l
,m
,n
という変数をモジュール内で宣言している.例えばメインプログラムからこのモジュールを利用する際に,他の用途に使おうと思ってこれらと同じ名前の変数を宣言するとコンパイルエラーとなってしまう.実はコンパイルエラーを出してくれればまだ良い方なのであって,メインプログラムで変数宣言を忘れた場合にはこれらの変数が普通に使えてしまう.モジュールの変数だと意識して使っていれば問題は無いのだが,そんなことはお構いなしに全く違う用途に使って値を書き換えてしまうと,モジュール内部でこれらの変数に依存しているようなコードは動作がおかしくなってしまうかもしれない.公開する必要が無いものは予め非公開にしておけば,このような不用意なバグの混入を未然に防ぐことが出来るのである.public
と private
の指定方法はいくつかあって,個別に指定する場合は
1integer, private :: l, m, n
のように変数宣言時に属性を指定することが出来る.または
1integer :: l, m, n
2
3private :: l, m, n
のように別に指定することも可能である.なお,内部手続きの公開設定についても上の3行目のような形で手続名を並べれば良い.デフォルトで非公開としたい場合にはモジュール宣言の最初( implicit none
の後)に private
を指定しておけば,明示的に public
属性を付けない限りは非公開となる.実用的なプログラムではデフォルトを非公開の設定にし,必要な物だけに public
属性を指定することを強く推奨する.
以下は単位変換付きの物理定数モジュールの例である.デフォルトで private
にすることでモジュール内部の変数には直接アクセス出来ないようし,その代わり必要な定数の値を返す関数を public
にしてある.アクセスする手段(インターフェース)を敢えて限定することで,単位系のモード( unit
)に応じて物理定数の値が自動的に切り替わるようになっている [3].
1! 物理定数モジュール
2module mod_const
3 implicit none
4 private ! デフォルトで非公開
5
6 ! 単位選択フラグ: 1 => MKS, 2 => CGS
7 integer, save :: unit = 1
8
9 real(8), parameter :: pi = 4*atan(1.0_8)
10 real(8), parameter :: mu0 = 4*pi * 1.0e-7_8
11
12 ! MKS => CGS への変換ファクター
13 real(8), parameter :: T = 1.0e+0_8
14 real(8), parameter :: L = 1.0e+2_8
15 real(8), parameter :: M = 1.0e+3_8
16
17 ! MKSで定義
18 real(8), parameter :: mks_light_speed = 2.997924e+8_8
19 real(8), parameter :: mks_electron_mass = 9.109382e-31_8
20 real(8), parameter :: mks_elementary_charge = 1.602176e-19_8
21
22 ! これらのみ公開
23 public :: set_mks, set_cgs
24 public :: light_speed, electron_mass, elementary_charge
25
26contains
27
28 ! MKSモード
29 subroutine set_mks()
30 implicit none
31
32 unit = 1
33 end subroutine set_mks
34
35 ! CGSモード
36 subroutine set_cgs()
37 implicit none
38
39 unit = 2
40 end subroutine set_cgs
41
42 ! 光速
43 function light_speed() result(x)
44 implicit none
45 real(8) :: x
46
47 if( unit == 1 ) then
48 x = mks_light_speed
49 else if ( unit == 2 ) then
50 x = mks_light_speed * L/T
51 else
52 call unit_error(unit)
53 end if
54
55 end function light_speed
56
57 ! 電子質量
58 function electron_mass() result(x)
59 implicit none
60 real(8) :: x
61
62 if( unit == 1 ) then
63 x = mks_electron_mass
64 else if ( unit == 2 ) then
65 x = mks_electron_mass * M
66 else
67 call unit_error(unit)
68 end if
69
70 end function electron_mass
71
72 ! 素電荷
73 function elementary_charge() result(x)
74 implicit none
75 real(8) :: x
76
77 if( unit == 1 ) then
78 x = mks_elementary_charge
79 else if ( unit == 2 ) then
80 x = mks_elementary_charge * light_speed() * sqrt(mu0/(4*pi) * M * L * T**2)
81 else
82 call unit_error(unit)
83 end if
84
85 end function elementary_charge
86
87 ! エラー
88 subroutine unit_error(u)
89 implicit none
90 integer, intent(in) :: u
91
92 ! 標準エラー出力へ
93 write(0,'(a, i3)') 'Error: invalid unit ', u
94
95 end subroutine unit_error
96
97end module mod_const
9.6. 構造型
これまで扱ってきた integer
や real
のような組込み型だけで無く,新しいデータ型を自分で定義して用いることもできる.これを 構造型 と呼ぶ [4].構造型は組込み型やその配列はもちろん他の構造型を要素に持つことも出来る.
9.6.1. 定義と使い方
構造型は以下の様な形式で定義される.
1type :: name_of_type
2 !型名 :: 要素名
3 !の形で任意の変数を定義する
4end type name_of_type
組み込み型と同様に,定義した構造型の変数を以下のように宣言することによって使うことが出来る.
1type(name_of_type) :: name_of_variables
例えば以下の例では,倍精度実数型の x
,y
を要素に持つ新しい構造型 vector2
を定義して用いている.
1! 2次元のベクトル
2type :: vector2
3 real(8) :: x, y
4end type vector2
5
6! 構造型の変数を宣言
7type(vector2) :: a
8
9! '%'を用いて各要素にアクセスが出来る
10a%x = 1.0_8
11a%y = 0.0_8
構造型の各要素にアクセスするには上の例のように"%
"を用いれば良い.構造型を用いると,常にセットで必要になるような複数のデータをまとめて保持することが出来るので,上手く利用すればプログラムが非常に見やすくなる.例えば非常に多くの引数を必要とするサブルーチンでも,構造型を利用してデータをまとめることで引数の数を減らして,スッキリとした形に書き換えることが出来るだろう [5].
9.6.2. ユーザー定義演算子
構造型の機能として特筆すべきは,構造型に対する演算子を自分で定義することが出来るという点である.これをユーザー定義演算子と呼ぶ.演算子の定義は以下のように総称名の場合とほぼ同様である.
1interface operator (.operator.)
2 module procedure specific_procedure1, specific_procedure2
3end interface operator (.operator.)
演算子記号は +
,-
,*
,/
という組込み型に対して定義されている演算子か,または .operator.
のように両側をピリオドで挟んだ名前のいずれかである.例として,ベクトル同士の和を各要素同士の和として +
演算子を定義しよう.以下の関数は2つのベクトルを引数に受け取り,要素同士の和を計算したものを結果として返す.
1! + 演算子の中身
2function add2(a, b) result(ret)
3 implicit none
4 type(vector2), intent(in) :: a, b
5 type(vector2) :: ret
6
7 ret%x = a%x + b%x
8 ret%y = a%y + b%y
9end function add2
これを interface
を用いて
1interface operator (+)
2 module procedure add2
3end interface operator (+)
のように宣言しておくことで type(vector2)
の変数 a
,b
の和を a + b
のように記述することが出来る.この +
演算子の計算の実態は上の add2
という関数である.
また演算子についても総称名を用いることが出来る.すなわち add2
は引数が2つとも type(vector2)
であったが,例えばどちらか片方が実数型の場合の処理も定義して interface
宣言に加えておくことで,+
演算子を総称名として用いることが出来る.これを演算子のオーバーロードと呼ぶ.
例えば,先ほどの add2
に加えて add2_scalar1
,add2_scalar2
の2つの関数を interface
に加えておく.
1interface operator (+)
2 module procedure add2, add2_scalar1, add2_scalar2
3end interface operator (+)
ここで add2_scalar1
,add2_scalar2
はそれぞれ以下のように定義されたものとする.
1! + 演算子の中身: vector2 + scalar
2function add2_scalar1(a, b) result(ret)
3 implicit none
4 type(vector2), intent(in) :: a
5 real(8), intent(in) :: b
6 type(vector2) :: ret
7
8 ret%x = a%x + b
9 ret%y = a%y + b
10end function add2_scalar1
11
12! + 演算子の中身: scalar + vector2
13function add2_scalar2(a, b) result(ret)
14 implicit none
15 real(8), intent(in) :: a
16 type(vector2), intent(in) :: b
17 type(vector2) :: ret
18
19 ret%x = a + b%x
20 ret%y = a + b%y
21end function add2_scalar2
このようにしておけば,vector2
型と倍精度実数型の +
演算が可能になる.この時,a + 1.0_8
のような演算では add2_scalar1
が,0.5_8 + a
のような演算では add2_scalar2
が自動的に呼び出されることになる.
9.6.3. ユーザー定義代入文
代入文( =
)に関しては,ユーザー定義演算子とは少し事情が異なるのでここで触れておく.まず代入文は,同じ構造型同士であればデフォルトで使用可能である(例えば type(vector2)
型の変数同士で a = b
としても良い).この場合は,構造型の各要素で単純に代入文が実行される.異なる型同士での代入には,ユーザー定義代入文の定義が必要である.(明示的に指定しない限り,コンパイラには何が正しい代入動作か判断出来ないため.)
ユーザー定義演算子と異なり,代入文の実態はサブルーチンを用いて定義する.
1! = 中身
2subroutine assign2(a, b)
3 implicit none
4 type(vector2), intent(out) :: a ! intent(out) に注意
5 real(8), intent(in) :: b ! intent(in) に注意
6
7 ! どちらも同じ値
8 a%x = b
9 a%y = b
10end subroutine assign2
このサブルーチンを代入文として用いるには以下の様な interface
宣言を行う.
1interface assignment (=)
2 module procedure assign2
3end interface assignment (=)
これによって a = 0.0_8
のように,=
の右辺と左辺が異なる型の変数の場合であっても代入を行うことが出来るようになる.これにも総称名を用いてオーバーロードすることが可能である.
9.7. 第9章 演習課題
9.7.1. 課題1
サンプルプログラムをコンパイル・実行して動作を確認せよ.さらに,適宜修正してその実行結果を確認せよ.
9.7.2. 課題2
サンプルプログラム sample1.f90 を参考にして,数学定数を定義するモジュールを作成せよ.メインプログラムも作成して,動作を確認すること.特に use
によるモジュール参照, only
の使い方などを理解し,定数値の書き換えが出来ない(コンパイルエラーとなる)ことを確かめよ.数学定数としては例えば \(\pi\), \(\sqrt{\pi}\), \(e\) などを定義すれば良い.
9.7.3. 課題3
sample5.f90 のモジュール mod_vector
で定義されている2次元のベクトル構造型 type(vector2)
を拡張し,以下の演算子を定義せよ.(以下で a
, b
は共に type(vector2)
で宣言されたものとする.)
-
演算子: 倍精度実数とtype(vector2)
の間で以下のような演算が出来るようにする.
1b = a - 1.0_8 ! b%x = a%x - 1.0_8; b%y = a%y - 1.0_8; と同値になるように
2b = 1.0_8 - a ! b%x = 1.0_8 - a%x; b%y = 1.0_8 - a%y; と同値になるように
*
演算子: ベクトル積を返す演算子とする.(従って以下の2行が同じ結果となる.)
1write(*,*) a * b
2write(*,*) a%x * b%y - a%y * b%x
=
演算子: 以下のような代入文を実行できるようにする.
1a = 1.0_8 ! x, yに同じ値(1.0)を代入
2b = (/2.0_8, 1.0_8/) ! xには2.0, yには1.0を代入
ここで b = (/2.0_8, 1.0_8/)
の右辺は長さ2の倍精度実数型の配列である.
9.7.4. 課題4
mod_vector
をさらに拡張し, x
, y
, z
を要素に持つ3次元ベクトルを表す構造型 type(vector3)
を新たに定義せよ.また,この型に対する +
, -
, *
, =
などの演算子を定義せよ.(ただし, *
演算子は通常のベクトル積を返すものとし,それ以外は type(vector2)
の自然な拡張となるようにすること.)
さらにサブルーチン show
をオーバーロードし, type(vector2)
, type(vector3)
のどちらの変数も引数に取れるようにせよ.
これによって,例えば
1type(vector2) :: a, b, c
2type(vector3) :: x, y, z
3
4write(*, fmt='(a)') '--- vector2 ---'
5
6a = (/1.0_8, 0.0_8/)
7b = 1.0_8
8c = a + b
9
10call show(a + b)
11call show(a - b)
12
13write(*, fmt='("a * b = ", f12.4)') a*b
14
15write(*, fmt='(a)') '--- vector3 ---'
16
17x = (/1.0_8, 0.0_8, 0.0_8/)
18y = 1.0_8
19z = x * y
20
21call show(x)
22call show(y)
23call show(z)
24call show(x+y)
25call show(x-y)
のような記述が可能になるはずである.
9.7.5. 課題5
有理数を表す構造体を扱うモジュールを作成せよ.有理数同士の和差積商の演算子もそれぞれ定義すること.さらに,代入演算子で長さ2の整数配列を受け取れるようにし,また有理数を標準出力に表示するサブルーチン(例えば show
)も作成せよ.(有理数の分子および分母は整数であるので2つの整数型を持つ構造体として定義すればよい.)
1type(rational) :: a, b
2
3a = (/1, 4/)
4b = (/2, 5/)
5
6write(*, fmt='(a)', advance='no') 'a = '
7call show(a)
8
9write(*, fmt='(a)', advance='no') 'b = '
10call show(b)
11
12write(*, fmt='(a)', advance='no') 'a + b = '
13call show(a+b)
14
15write(*, fmt='(a)', advance='no') 'a - b = '
16call show(a-b)
17
18write(*, fmt='(a)', advance='no') 'a * b = '
19call show(a*b)
20
21write(*, fmt='(a)', advance='no') 'a / b = '
22call show(a/b)
例えば上のようなプログラムをコンパイルして実行した結果が以下のようになればよい.約分も忘れずにすること.最大公約数を求める関数もしくはサブルーチンを用いると良い.(絶対値に注意すること.)
1$ ./a.out
2a = 1 / 4
3b = 2 / 5
4a + b = 13 / 20
5a - b = -3 / 20
6a * b = 1 / 10
7a / b = 5 / 8